今田初は、今年の正月で十六を迎えた。


そろそろ縁談が舞い込む時期であり、頭の中に想い人を住まわせる彼女にとって、それは憂鬱以外の何ものでもない。


だが、関わりのない人間と祝言を上げられる可能性は最早零に等しく、自分の身の上を考えて親の言うままに嫁に行かねばならない。


嫌だ、と言おうものなら、親から「ならば恋仲を連れてこい」と言われるのが明らかで、流石にそれは出来るはずもない。


(わたし、良く考えてみれば、あの方のことをよく知らないのよね。会津に仕えていると仰ったけれど……)


恋仲になりたいなどという、おこがましいことは言わないが、せめてもう一度、彼に会いたいと強く思った。


――井岡様。
お会いしたい……。


開く戸をもの悲しく見つめている初は、喉から胸がぎゅっと押される切なさを感じ、ただ彼が店に来ることを待ち続けた。





今日もいらっしゃらなかった。数週間ずっと待ち続けてもあの方の姿は見えない。


――当たり前だけれど、あの方にとってわたしは、ただ数度会っただけの女ね、と諦めきれない自分を小さく嗤った。


夜になり、店の納戸を閉めていると、戸を叩く音がした。お客様だ、と思いすぐさま扉を開けると、




そこには、待ち焦がれた人がいた。