しとしと。しとしと。

静かに雨が降っている。

目の前に薄いスクリーンが掛けられているみたいに、視界が霞む。雨粒たちの光の反射が、世界を白ませていた。


車の音も、電車の音も、今は聞こえない。

ぱたぱたと傘を打つ雨粒の音が段々と耳障りに聞こえてきて、僕は腕を下ろした。

髪の毛が湿っていく。Tシャツが肌に張り付く。雨の音が、しとしと。しとしと。


霞む視界の中心に居る、彼女。
青い紫陽花と、その下で雨宿りをする野良猫と、その猫に傘を差し出してしゃがみこむ彼女と。

彼女の髪の毛からもまた、雫がこぼれていた。それでも、微笑む、彼女。

しとしと。しとしと。雨が降っている。

雨は、空気を洗い流し、世界を変える。

灰色の空から、綺麗な、綺麗な、雨たちがやってきて。

綺麗な、彼女を。更に綺麗に磨いているみたいで。


右足を前に出す。左足がそれに続く。

水溜りが、ぱしゃ、と音を立てた。

下ろしていた腕を上げる。しゃがみこむ彼女へ。


止んだ雨に彼女が顔を上げる。

僕に気付いて、にっこりと笑った彼女に、僕もまた微笑んだ。














紫陽花と猫と彼女と

    (雨と、僕)





end