灯台守は、いつもひとりであった。



一脚の椅子と、何度も何度も読み返して背表紙が剥がれかけている本を一冊。それだけが灯台守の仕事の供であった。


そうして、灯台守は、高い高い灯台の上から、澄んだ水平線を眺め、ウミネコの声を聴き、ゆっくりゆっくりと時間を過ごした。


大分長いこと、灯台守はこうして生きていた。

段々と手の皺が増え、髪が白く染まっていき、やがて歳を数えるのをやめた。



毎日、毎日。

灯台守は水平線を見つめてきた。

ゆうるりと曲線を描くその一本の線は、灯台守に地球の丸いことを教えた。
海と空の青さの違いを教えた。


毎日、毎日。

灯台守は水平線を見つめていた。


灯台守に不満などなかった。


かつて地上に住んでいたときのことは、まるで前世の記憶かのように霞んでいた。

生まれてから死ぬまでずっと、灯台守は灯台守であった気がしていた。

地球が生まれたときから自分はここで灯台守をしていて、そうして地球が死ぬとき、自分もまた死ぬのだという気がしていた。