「その時計に、溜めてください」

老爺は同じ言葉を繰り返した。


「何も心配することはありません。その針が再び真上を向くときに少し面白いことが起きるだけです」

「面白いこと?」

思わず僕が口を挟んだ。


「はい。何が起きるかを知りたければ、その時計を肌身離さず持っていることです」

僕たち以外に人の居ない店内は静まり返っていて、くぐもった老爺の声もよく聞こえた。それでも、彼の言葉が何を示唆しているのかはまったく分からなかった。


「溜めるって、一体何を溜めるんですか?」

興味津々、といった様子で彼女が聞いた。


「その答えはもうご存知のはずです……」

そう呟くと、老爺は眠りに就くように俯いて動かなくなった。

僕たちはお互いに顔を見合わせた。彼女は期待に胸を躍らせたわくわくとした顔で、僕は気味の悪さに眉を顰めて。


店を出て帰宅する道すがらずっと、彼女は大切そうに落下タイマーを両手で抱えていた。