言葉の意味が分からなくて、僕と彼女は同時に首を傾げる。一度僕と顔を見合わせてから、彼女は老爺に向きなおした。


「あの……どういう意味ですか?」

「ああ、まだだったんですね。失礼」

老爺はそれ以上答えなかった。再び口を開く気配のない老爺に"清算"の真意を聞き出すことを諦めて、彼女は気を取り直して当初の予定である不思議な現象についての言及を始めた。


「実は、この時計を買ってから不思議なことが起こったんです」

老爺は小さく頷くだけの相槌を打った。


「落としたはずのお皿やカップが、気が付いたら手の中に戻っていたの。床には破片ひとつ落ちていませんでした。……言っている意味分かります?」

最後の一言が嫌味に聞こえないように注意しながら彼女が聞いた。老爺は同じように頷いた。

驚いた様子のない老爺に手応えを感じたのか、彼女は微かに興奮を孕ませた声で言った。


「そういうことが起きると、落下タイマーの針が進むんです。逆方向に。……これって、一体どういうことなんでしょう」

老爺はもう一度小さく頷いてから彼女を見上げた。そして静かに口を開き、低くしわがれた声を出す。


「溜めてください」

「え?」

彼女が反射的に聞き返した。