「何でしょう」
しわがれた声がした。
店内にめぐらせていた視線を戻すと、扉の奥から老爺(ろうや)がのっそりと出てきたところだった。
「お聞きしたいことがあるんです」
隣に立つ彼女が、愛想の良い声ではっきりと言った。
店の主人らしい老爺は、店内の骨董品とまったく同じ雰囲気を漂わせていた。まるで何百年も前からこうして生きていて、骨董品たちを守っているような。
くすんだ色のニット帽を被り、布を何重にも巻きつけたような不思議な服を着ていた。瞼が開いているのかどうかも分からないほどに瞳は小さく、目があるはずの位置に暗く淀んだ空洞があるだけのようにも見えた。時と共に刻まれた皺が老爺の顔にたくさんの影を落としていた。
彼女が鞄から例の「落下タイマー」を取り出して、椅子に座った老爺に見えるように机の上に置いた。
「この時計、先日こちらのお店で購入したものなんです」
「はい。よく覚えております」
老爺は低い声で答えた。それからゆっくりと彼女を見上げた。
「もう清算しましたか?」
しわがれた声が聞いた。


