「なんだかおかしいよ。文字盤に数字が書いてないし、針が一本しかない。これ本当に時計なの?」

思ったことをそのまま告げると、彼女は少し考えるそぶりを見せてから口を開いた。


「確かに不思議なのよね。それにほら、よく見て」

そう言ってずい、と僕の目の前に時計が差し出される。言われるがままに時計をじっと見つめてみるが、時計の針は何分経ってもぴくりともしない。


「壊れてるの?」

「よく分からないのよ。針が動かないから私もそう思って買うときに訊いてみたの、店長さんに。でも、どこも壊れてません、って言われたわ」

再び彼女の手の中の時計を見やる。針は先ほどとまったく同じ位置にあった。少しも動く気配がしない。


「不良品じゃないの」

「そうかもしれないわね。でもいいの。他にも時計は持っているし、これは観賞用として持つことにするわ」

にっこりと笑う彼女に僕がそれ以上言えることは何もなかった。


「君がいいならそれでいいよ」

優しく頭を撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細めた。