「それ、なあに」

ソファに座った彼女にコーヒーを差し出しながら問う。ありがとう、と小さくお礼を言ってから彼女は時計について語り始めた。


「"落下タイマー"って言うんですって。小さな骨董品屋さんで見つけたの。よくわからないけれど、なんだか素敵でしょう? 私、一目惚れしちゃった」

嬉しそうに言う彼女の隣に座りながらその手の中のものを見る。

確かに妙な魅力のある時計だった。平べったいその時計は懐中時計のようにも見えたが、それにしては大きい。彼女の両の手のひらでやっと収まるような大きさだ。裏には感嘆に値するほど細かな装飾が施されていて、よくわからない模様が繊細に彫られていた。それは花にも魚にも見える不思議な模様で、文字盤の縁にも同様のものがあった。

そして、その文字盤が妙だった。
文字盤と言うくらいなのだからそこは普通数字などの文字が書いてあるはずなのだが、この時計にはそれが一切なかったのだ。代わりに普通の時計の"12"の位置に小さな石が埋め込まれている。透き通る空色の綺麗な石だ。

それに加えてこの時計、針が一本しかない。