顔を上げて目が合った黒雅さんは、どこか困った様に笑いながらベンチを指さした。

「えぇっと…まぁ、月並みだけど、立ち話もナンだからさ、座らない?」

彼の申し出をすんなりと受け入れる。

「結構熱されて熱いんだ。どうぞ。」

そう言ってタオル生地のフェイスタオルを渡された。

「紳士的なところも相変わらずなんですね。ありがとうございます。」

変わらなさ過ぎる彼の言動に何故か安心する。
好意は有難く受け取ることにした。

腰を下ろそうとすると、数メートル先の木陰に散らつく人影を見付けてしまった。
陳腐な探偵ごっこみたいに、下手なかくれんぼをしている人は、いや、待てよ、と思考を働かせてみる。

あぁ、そうか。「わざと」だ。わざと見付かりやすい位置に居るんだ。
此処にくるまでの間、シャットダウンされていた聴覚は、「背後の足音」にも油断していたようだ。

黒雅さんに気付かれない様に僅かな溜め息を吐いて、ゆっくりとベンチに腰を下ろす。
熱を吸収した木製のベンチは直に躰全体を包みそうな程の木の温もりをもっていた。