「廻音ー。」

シャワーの音に消えてしまいそうな音量で名前を呼ばれた。

それを合図にハッとする。
浴室に時計なんて物は無いが、随分と湯だった躰から、かなりの時間が経過した事を悟る。

「もう上がるー!」

浴室で逆上せているのではなかろうかと様子を見に来たのだろう。
大丈夫、の意を示し声を上げた。

「あんな」來玖さんでも、デリカシーは身につけているらしい。
断りも無しにドアを開けるような真似はしない。
それでも第一に私の身を按じてくれる彼には、これでも感謝はしている。

私の前に現れた唯一の、私じゃなきゃ駄目な人。

私を愛してくれるから、彼を愛しているわけではないし、彼もまた、同じに思えた。

例え私が彼に見向きなどせずとも、彼は私を欲するように思えるし
私も今では、彼が居ない生活など考え難いモノとなっている。