部屋の前に着いて、ゴソゴソと鍵を探した。
周りが暗くてよく分からない。
ケチ管理人め。電灯くらい点けてよね、と悪態をついた。
だって今は、無敵だから。

なんて事を考えていると、いきなりドアが押し開かれてギョッとしていれば、中から彼が顔を出した。
夜遊び娘が帰って来なくて心配する母親の様な表情をしている。

あぁ、そうだった。
來玖さんが待っていたんだった。
本当に遅くなってしまった。ごめんなさい。

心の中で呟いてみる。

「遅かったね。」

やっぱり。

「ごめんなさい。」

「それは良いんだ。楽しむ君を阻止するなんて野暮な事はしない。
ただ、心配した。すごく、した。」

「うん。ごめんなさい。
でも私がドアの前に居るってよく判ったね。」

「階段を上がる音がしてね。もしかして廻音かなって。
魚眼レンズから見てた。」

「その光景、想像したらとても怖いです。」

「君ときたら、まるで俺が居るって事も忘れているみたいに鍵でも探していたんだろう。鞄を漁り始めて。」

「…ごめんなさい。」

「お仕置きだね。」

お仕置き出来る事が心底嬉しいとでもいうように黒い笑顔が近付く。

「…お酒、呑みすぎだよ。」

鼻先でカサリと首筋をやられ、アルコールとは別に体温が上昇していくようだ。

「酔い、醒ましてあげようか?『酔ってる事も忘れるくらい』がしっくりくるかな。」

まずい。こんな場所でヒートアップされる訳にはいかない、と彼を室内に押し込んだ。