「今日、君に会って、」

切り出した彼の声は、なんとなく震えている気がして、でも気付かないふりをした。
その方が絶対にいいと思ったから。

「今日、君に会って、情けないくらい感情を吐露して、余計に実感した。
今もこんなにも輪廻が欲しくて堪らないんだ。
その想いは彼女に出逢ってからずっと在った筈なのに、あの日…あの夜俺は、『大切な過ち』を犯してしまった。
もう、今はまだ、彼女の傍には居られない。」

盗み見た黒雅さんの表情は、いつかの路上で見た姉を思い出させた。

一度は別れを決意した歳月の中で、何度彼女の記憶に泣いたのだろう。
己が犯した過ちを、彼はきっと無かった事にしようなどとは思えずに、だからこそこんなにも苦しいのだろう。

無くしてしまうどころか、彼はこの罪に責められようとも、とことん追い込まれようとも、あの夜を背負って生きていくことこそが、愛だと信じている。

他人からみれば途方もなく目眩すらしそうな日々の中で、黒雅さんにとっては支えにすらなっていたのかもしれない。