満月のせいで、枝葉の影がざわざわと渉に被さり、時には手招くように影が踊る。


斜面のためか、やけに影が長い。緑にとっての月明かりは碧と変わり、なかなかに落ち着く色合いになるのだが、影が呑み込み、恐怖の象徴たる黒にした。


「……め……め」


階段の半分以上登りきったさいに聞こえた声。


影の黒ではない、本物の真黒が月明かりに照らされてよりその存在を際立たせていた。


「……りは……い……い……」


遠目から見れば、黒い何か。近づいて見れば、黒い布の塊。近場で見れば、黒い人。


肌色を一切見せずに、汚い布で頭から足先までを隠した人が石段に腰をかけて丸まっていた。