大切な友人を“狂わせたくないため”に渉は言えず、これからも今まで通りに接してほしかったのも踏まえて、やはり渉はこのことは話さないでおこうと決めた。


「よし……」


そうしようと決断をし、顔を上げた。


上げた先には階段。石造りの長い階段は、渉の家へと続いている。


緑が生い茂った山の中腹に、今にも消えそうな灯りが見えた。


じりっと細い足場を登り、足を踏み間違えないように下を向いた。


階段に明かりはないが、普段日頃から帰るのが夜になるためか、夜目が利くようになった。


実際に下を向いたのは最初の数段だけで、あとは感覚的に足場を踏み越えてずんずんと進んでいく。