台無しだと叫んでも良かったが、そうしなかったのはひしひしと友人たちの思いやりが渉の葛藤を消していてくれたからか。


涙さえも我慢していたのに決壊した。声には出さないが、先ほどから前が見えない。


「呪いなんかどうでもええから、早く僕の頭をまた撫で撫でしてえなぁ、わたるんはん。僕はそのためにわざわざ来たんやからねぇ」


期待に満ちた声で冬月も渉の手に「撫でて撫でて」と言うがごとく、握ってみせた。


「弟をこないにするやなんて、罪なお人やねぇ。冬月を撫でたら最後、どないあんさんが嫌いになってもまとわりつきますえ。覚悟することやねぇ、わたるんはん」


冬月のなつきぶりに、兄は朗らかに言ってみせた。