「阿行さん――あなたたちが人質にしたという彼女はいないんですね」
狭い場所だし、目立った機材もない、前を見るだけで全貌が分かる場所に人を隠せるとは思えなかった。
見る分にはいないわけだが、案外、ドラム缶の後ろにいるのかもと可能性としてはゼロでないことも――
「いないんですね、阿行さんは」
ここにいること自体があり得ないと渉は最初から、人質の話が嘘であると分かっていた。
ここに来たのは確認のためか。 いくら100%でも、きちんと見て納得したいもの。
怪異である阿行がこいつらに何かされるわけもなく、明らかに友好的でないこいつらに阿行がおぶさり続けるわけもなかった。それに今日は、“彼女”と買い物をしているだろうし。
阿行は誰かにおぶさらなければ学園の敷地から出られない人に憑く怪異だ。無理矢理の連行など阿行がその気になれば、無事で済まないのはあちら。


