「やっぱ使わないから、あげる」

大きな手に小さな紙袋が載っている。

反射的に受け取ったが、何だろうこれ?

「じゃあ、また」

早口で言って、走って行った。

どんどん小さくなる背中。

もうちょっと見ていたかったのにな。

これ何だろう?

待ちきれず、その場で開けた。

絵の具。

画材屋さんで最後まで悩んだあの絵の具だ。

興味無さそうにしていたのに、ちゃんと見ててくれたの?

「バーミリオン ヒュー」という名前のオレンジ色。

あの日見た夕日みたいな、華やかで切ない色。

使わないからって、やっぱって、なに?

素直に言えばいいのに。