何事かと、背の高い彼を見上げようと顔を上げた瞬間




「『僕はもう、ビリヤードなんかやらない』」




後ろから子供の声が飛んできて、思わず振り返った。


こんな裏通りの飲み屋街に、子供の声など場違いだとも思ったが、(塾帰りかな……?)と思わせる程には聡明な声だ。



「『なんで僕が……今更……玉撞きなんて――』」



(――!!)


はたと気が付いて、勢いよく桐原さんの方へ振りかぶる。




(そうだ、これは――!)



「『――これを見て、ビリヤードになど失望すればいい――

……いくぞ!“スクウェア・サンシャイン”!!!』」



演じきった桐原さんの背中に、思わず拍手しながら立ち上がった。


すごい。


これまで幾度となく桐原さんの声を聴いてきたけれど、そのどれとも違う、まったく聴いたことのない、しかしそれでも確かな桐原さんの声だ。


そしてこれは