「・・・お前が、わりぃんだよ」
終いにはそんなことを言い出した。
「な、なんでよ・・・!」
急な展開に頭がついていかない。
けど口はよく動くもので。
「・・・っ、
ていうか、何で俺だけフルネームで呼んでんだよ。」
木崎旬はまだ視線を外してくれない。
なんだろう、怒ってる・・・?
この目つきは絶対そう。
けど、どうして・・・?
「今はそこが問題じゃ・・・」
「なんでだよ。」
言葉を被してくるものだから驚いて喋るのをやめる。
・・・木崎旬の雰囲気が、怖い。
「・・・皆は呼び捨てにしろっ、て言ってたし・・・。
それに・・・、えと・・・、
木崎旬は初めて会った時そう呼ばなきゃいけない感じがしたから・・・。」
私は木崎旬に怯えつつも言葉を繋げて話し切る。
「そんなことねぇよ。
今からちゃんと下の名前で呼べよ。」
「む、無理だよ。
今更変えられない。」
「じゃあフルネームで呼んだ数だけキスしてやるよ」
「・・・っ!」
急にキスという単語が出てきて言葉が詰まる。
「呼べよ」
ズイっと顔を近付けて至近距離で言われる。
どうやら何か変なスイッチが完全に入り込んでいる。
木崎旬はさっきまで超優しい接し方をしてくれていたのに・・・!
二週間前の抱きしめられたことが記憶から引き起こされる。
ドキドキ胸の音がすごくて。
二週間前は毎日意識しちゃって喋れなかった。
また、
木崎旬を見る度にドキドキしちゃう。
二週間前と、同じ気持ちと感覚。
ずっと視線は絡まりつづけている。
それも近い距離で。
「・・・旬・・・」
この距離に耐えられなくなって小さくそう呼んだ。
「お前は俺だけ見てろ。」
そう吐き出すように言い、
木崎旬はスッと私の手首を離して顔も遠ざけた。
何、最後の台詞。
言われなくても・・・言われなくても・・・。
もう木崎旬しか目に入らなそうだよ・・・。
・・・心臓が爆発しそうだ。
ふうっ、と心拍数を元の正常値に戻していく。
「・・・行くか。」
そう言って私にサンダルを履かせて立ち上がる。
また、手を繋いで。
この手を繋ぐのも、
さっきまではそんなに意識してなかったのに・・・。
こんなに胸が熱くて、苦しい。
死んじゃいそう・・・。
「・・・俺の事しか考えさせないって決めたんだけどな・・・。」
そう、旬が呟いたのは、
ドキドキで頭がパンクしそうだった私には入ってこなかった。


