しかも木崎旬がこんなに笑うなんて・・・、
すごく貴重な瞬間かもしれない。
以前だったらこんなに喋ることさえ有り得なかった。
二人きりになんかなったら、
お見合いみたいにドギマギしそうだったし。
ということは木崎旬は人見知りなのかな・・・?
そんな想像を膨らませつつ、
私は笑い過ぎて苦しくなった呼吸を整える。
そしてボソッと呟いた。
「・・・修達今頃どうしてるかなーっ、ハハッ」
笑い混じりに。
そしてそのまま喋り続ける。
「だってあのまま修ずっと店員さんと喋ってるわけないもんねー。
郁斗だってもう映画は終わってる時間でしょ?
あー、
でも郁斗ならそのままあの女の子と一緒に帰っちゃいそうだなー。
でも要路は真面目だからずっとあそこで勉強してそう。」
空を眺めながらそんな事を言ってみる。
「・・・」
木崎旬は私に返答せず黙ったままだった。
無視ですか。
少しムッとして声をかける。
「なんか言ってよ。
一人で喋って恥ずかし・・・」
そう言いかけた所で私は喋れなくなった。
何でって・・・。
何かに唇を塞がれたから。
生暖かい、何かに。
え・・・?
鼻の辺りに柔らかい黒いワサワサしたものがあたってて。
目の前には木崎旬の顔があって。
・・・この私の唇に触れている物は何だ?
・・・くち、びる?
木崎旬の・・・唇・・・?
そう自分の頭の中で整理がついた時には木崎旬は私から離れていた。
かわりにガシッと左手首を木崎旬の右手に掴まれる。
瞳のからの線がバッチリぶつかる。
ちょっと、待って。
だって、だって・・・。
今、今さ・・・。
キス、したよね・・・!
顔が赤くなっていく感覚がわかる。
そこから頭も爪先も熱くなってく。
喋れない。
驚きで喋れない・・・!
どんどん胸の鼓動が高鳴っていく。
木崎旬に聞こえるんじゃないか、
ってくらいに大きな音を響かせている。
「・・・な、なんで・・・」
私はなんとか声を搾り出す。
「・・・したくなったから。」
数秒してそう言った。
な、な、な・・・!
なんて理由なの・・・!
一応ファーストキスではないものの、
やっぱりキスってものは大事な行為なわけで・・・。
しかも、なんであのタイミングなの・・・!
どんなところでスイッチ入ってるの・・・!
また私は喋れなくなる。


