すると、
膝の裏と背中に人肌の感触を感じた。
「姫抱きの方がよかったか。」
木崎旬の声が耳に渡る。
・・・一瞬体が凍った。
顔を上げれば真上に木崎旬の顔があって、
口元は軽く釣り上がっている。
そして、今私の両足は地に着いていない。
・・・こ、れ、は・・・
「いやぁぁあ!な、な、早く下ろして!」
私は自分の状況に気付くとジタバタとその場でもがく。
私は今現在、お姫様抱っこ・・・
という仕打ちを受けているのだ。
それも老若男女たくさんの人々に見られてるという事も加えて・・・!
「おま、暴れるなよ」
「今目立ってる!
ちょっ!
下ろして!」
「お前がおぶられるのは嫌っつったからこうしてるんだろ」
「こっちはもっと嫌!
とにかく目立ちたくないの!」
「モデル志望がなんつーこと言ってんだよ」
「それとこれとは話が違う!
それに今重いって絶対思ってるでしょ・・・!」
「んなことおもわねぇな。軽すぎる。
また痩せたろ。拒食症か。」
「私は夏になると痩せちゃう体質なの!取り合えずおろして!
腕噛むよ!」
「噛むって・・・どんな攻撃だよ」
「3秒前!3・・・2・・・」
「あーっ、くそ」
ポンポンつづく本日何度目かの言い合い。
木崎旬はそう言うとは渋々私を下ろした。
周りからはチラチラ見られてすごい恥ずかしい。
私は俯く。
「・・・超恥ずかしい」
木崎旬は私がそう言うと、
めんどくさそうに頭をボリボリ掻いて私の目の前に手を差し出してきた。
「・・・ほら。」
そう言いながら。
・・・なに?
私の頭に大きなクエスチョンマークがポンポン浮かび上がっているのにも関わらず、
木崎旬は言葉を続ける。
「手、繋ぐくらいなら恥ずくねぇだろ。」
そう言って無理矢理私の手をとる。
私は驚いて手を離した。
その瞬間に顔を上げれば怪訝そうな顔をして私を見てくる木崎旬。
「や、やだよ・・・。
カレカノみたいじゃん。」
私は吃りつつ、小さい声で訴える。
さっきの言動で目立ってしまった分、
なるべく人目を惹く行動は抑えたい。
私がそう言うと木崎旬は更に目を細ませ、
口をへの字に曲げて、
不快感満載の表情を浮かべる。
「・・・なんだよ、
要路はカレカノみたいでよくて、
俺はダメってか?」
木崎旬は前屈みになってズイと私の顔にさっきより近づく。
「なんで要路がでてくるの・・・?」
私は控えめに抗議する。
「・・・前、学校で手、
繋いでたじゃねぇか。」
すると木崎旬も先程よりもボリュームを落としてそう言った。
手、繋ぐ・・・?
私は記憶を探る。
そして二週間程前の事を思い出した。


