「え?あ、ごめんね。
邪魔しちゃ悪いと思って。」
私はそう言って鞄をテーブルの上に置く。
マネキンを棚に戻しながら私と視線を合わせずに話し出す。
「気にすんなって。
郁斗達なんか俺が課題やってるときだってガンガン邪魔してくるからよー」
またハハっと歯を見せて笑う。
私からは修の横顔しか見えないけど、
口角が上がっているのがよく見える。
私もその笑顔に釣られて同じように笑う。
「なぁ、」
笑っていたかと思えば急に笑うのをやめた。
そしてスニーカーをフローリングに滑らせて私の目の前までやって来る。
そして185cmはあるだろう長身の体型をかがめ、
モデル志望ともあり、
175cmの私に身長に視線を合わせて来る。
「?」
いつも見上げている人がこんなに視線が近くなると何か新鮮・・・。
するとフっと笑って私の手を思い切り引く。
その次の瞬間に、お尻にバフンという衝撃か走る。
何!?
下を向けば、それは昨日も座ったドレッサーの椅子。
顔を上げれば私の顔。
後方には修。
「アレンジの練習させてくんない?」
修は鏡に自分の視線を移し、
私も鏡に映ってる自分の視線と絡ませる。
私はうん、と頷く。
「よっしゃ」
修は無邪気な笑みを浮かべて頷いてコームやヘアアイロン・・・
様々な器具を持ってくる。
あー、楽しみ。
外見はもちろん、
昨日みたいに、内面も変えてくれそうで。
こんなに心が踊っている自分に出会えて・・・。
久しぶりの感覚だったり、新しい経験が、いっぱい。
ファッションショーに関してはこんなの久々だ。
そして私の髪に櫛がとおろうとする。
にやけてるかも。
私は自分の顔が気持ち悪い事になっていないか鏡で確かめ、
取り合えず、にやけていない事に安堵した。
そしてまた髪に神経を集中させるように待つ。
けど。
・・・あれ?
いつまでたっても髪に何も感じない。
鏡越しに修を見れば、ピタリと櫛をとおす寸前で止まっている。
「?」
私の頭にはクエスチョンマークがポンと浮かぶ。
すると修は強張っていた表情を緩めて小さく言った。
「やっぱナシじゃねぇ。」
カション、
そんな音が耳に留まったと思い、
振り向くと修はコームをケースにしまった音だった。
・・・?
ヘアアレンジ、してくれない・・・?
さっきの興奮して熱かった心が急に冷えていくのがわかる。
修はそんな内に、道具を片付けていた。
数秒したところでまた私の方へ戻ってくると、
ドレッサーの近くにあったキャスター付きの椅子を持ってきて私の後ろに座った。
背もたれを自分の前側にして。
どうしたの・・・。


