―――放課後。





私は午後の最後の授業が終わった瞬間に鞄を持って学校を飛び出した。





何か、心が擽られるような。





何か、身体の芯が揺さぶられるような。





何か、頭の中にいい香りをぶちまけられたような。





言葉じゃ伝えることができないときめき。





いや、これは興奮かもしれない。





これからの毎日が輝いている気がする。





すごい、楽しみ・・・。





私は早歩きでアトリエに向かった―――――。





カランコロンと昨日と同様に鈴の音が店内に響き渡る。





私は木崎旬の母親にペこりと挨拶をする。





「・・・あら、昨日の。こんにちは。」





ふふっと笑みを浮かべる。





彫刻みたいに美しい顔。





木崎旬の顔が整っているのはきっと、親からのいい遺伝子を受け継いでいるからだな。





遺伝子って恐ろしい。





私はそう実感し、木崎旬の母親に向かって喋りだす。





「昨日から、木崎くん達のチームに入ったんです。




これから度々お邪魔することになると思いますが宜しくお願いします。」





また私は頭を下げる。





すると木崎旬の母親の陽気な声が降ってきた。





「きゃーっ。嬉しいわ!


ずっと男ばっかで息苦しかったの!

こんなお人形みたいな女の子がいるだけで店の雰囲気はよくなるってものよね!


大歓迎よ!」





木崎旬の母親はパチンと手を叩き満面の笑みを浮かべる。





あはは、と苦笑い。





いきなりバーッと喋られて若干ひいてしまった。





木崎旬と違って口数は多い。





会ったことはないが木崎旬は父親似なんだろうな。





母親は目がくりっと大きいのに、木崎旬は切れ長だし。





口数からしてまあ、父親似なんだろうなって感じる。





「旬まだ帰ってないけど修くんは来てるから!どうぞ入って!




男ばっかで困ったら私を頼っていいからね!」





パチンと綺麗に片目を閉じてウインクをする。





可愛い人。





直感的にそう感じ取れる。





私は木崎旬のお母さんに促されるままに扉を開く。





・・・ここから違う世界。





そんな感じ。





私は部屋に入り込み、パタンと扉をしめた。





部屋では修がマネキンの髪型をいじっていた。





いつものテンションが高い修じゃない。





真剣な表情をしてマネキンの髪に櫛をとおしている。





真剣な瞳。





プロかと思うくらいの手慣れた手つき。





のめり込むような姿勢。





思わずごくりと生唾を飲み込む。





皆、本気だ。





今までやってきたチームでこんなにも本気の姿勢で取り組む人がいたかな。





一位の名は伊達じゃない。





一位、一位って囃し立てられると、どうしても天才みたいに思われる所がある。





現に私は修達のことを天才の集まりだと思っていた。





私も、天才、天才と言われたりもしていた。





けど、私も彼等も天才じゃないんだ。





誰よりも努力して、誰よりも勉強して、誰よりも実践して、





一位と呼ばれるまで、やってきたんだ。





ドクンと胸の音が波打つ。





皆、すごいんだな・・・。





するとカシャンとコームを置く音がした。





鋏や修の息遣いなどの音しかしてなかった中で、

いきなり異世界のような音が入りこんできて思わず私は肩を揺らしてしまう。





その時に私の衣服が擦れる音がして修がこちらを向いた。





まださっきの瞳のままで。





私はその瞳にたじろぐ。





何だろう・・・、この感じ。





正面から見ると、
こんなにも、



威圧感のような、



儚げな雰囲気のような、



近寄ってはいけない空気のような、




そんなものが私の身体に降り懸かる。





私の存在を確認したのか、するとすぐに修はいつもの笑みを浮かべた。





「おお!美里!来たならいえよなー。」





ハハっと笑って修はマネキンを片付ける。