閉ざされていた扉に入り込んだ私。





焦げ茶のフローリング。





右側の壁の棚には、色々な髪型をした首から上だけのマネキンが何体も。





左側の壁の棚には、この世界の全ての色があるんじゃないかと思う程の数のマニキュア。





部屋の奥の棚には何から何まで揃っている、
まるでお店の一角のように陳列されている化粧品。





テーブルには何枚かの紙と下書き用のペン。




窓は小さく、少しだけ光が差し込んでいる。





何か・・・すごい。





私は目を見開いた。





何か、心が動くような、そんな感覚。





「おっ、美里ちゃん来てくれたんだね?



さ、どーぞどーぞ。」





そんな誰かの言葉で我にかえる。





いけないいけない、この空間に持って行かれそうだった。





さっきの言葉を言ったのは郁斗のようだ。





私は郁斗が指す、部屋の真ん中に一歩一歩足を進める。





そして中央でピタリと止まってみる。





「よくきたな!ここが俺達だけのアトリエだぜ!」





やたらテンションの高い修がその場でクルリとバレエみたいに回って笑う。





「あ、アトリエ?」





アトリエって・・・芸術家でもないのに。





私の生活上、あまり聞き慣れない言葉に思わずリピートした。





「そう、ここは俺達のアトリエさ。



ここで俺達は日々、デザインしたり、新しいヘアアレンジの練習をしてみたり。


作業はここでやっている。


皆は作業室と言うが、アトリエ、と言った方が格好よくないか?」





私の聞き返しに紳士的な笑顔を浮かべて、答える要路。





ほう、と私は感心する。





「確かに、アトリエって言った方がかっこいいね。」





私は笑みが零れた。





各科の一位が集まっているのだからかなりピリピリとした空気が漂っているのかと思えば全然そうでない。





むしろこの陽気さが羨ましいくらい。





私は声を出して笑いそうになる。




「よしっ、じゃあ鏡の前に座れ!」





私が笑っていたら、
いきなり修が私の手をぐいっと引きドレッサーのようになっている鏡の前に座らせた。





「わっ・・・」





突然の行動に小さく驚きの声が零れた。