「その事件で先に現場に着いた速水が近くの路上をうろついてた男性を緊逮したんだよ。証拠もなしにね」


「ええ」


「男性はダガーを所持してた。もちろん銃刀法違反なんだが、後で取り調べても殺しの実行犯じゃなかった。そしてホシはまだ捕まってない」


「はい」


「その男性は鬼塚賢悟という名前だったんだが、鬼塚はダガーを所持してただけだったから、警察で没収してすぐに釈放された。当然誤認逮捕ということで当時一巡査部長だったにも拘らず、勝手に動いた速水の責任が問われた。それから死んだ長谷川さんは速水に愛想を尽かし、越沼の方を可愛がった」


「単にそれだけの理由で、速水警部補と越沼警部が対立する羽目に?」


「ああ。……ただな、速水の誤認逮捕だけが長谷川さんの逆鱗に触れたわけじゃない。元々速水は都内の高校を卒業後、入庁してきて、最初は刑事部のデカじゃなかった。交通部の警察官だったんだ。女性刑事を忌み嫌ってた長谷川さんからすれば、速水が刑事部に出入りするようになったのは一番嫌だったらしい。これは俺も又聞きしたことだがな」


「では五課長は速水警部補が今回の捜査で仮に長谷川さんの転落死のヤマを取ったら、どうなると思います?」