大きな深呼吸をして、マンションの入り口へふと足を一歩踏み出したとき。 「あれ?」 後ろから、そんな声が聞こえて振り返った。 「あるみちゃん?」 「………熾音、さん」 そこにいたのは、車のキーを持って立っている千尋くんのお兄さんである熾音さん。 スーツを着ているところを見ると、どうやら仕事帰りのようだ。