「おっ!マリちゃんに聞いた通りラブラブやなー」


突然乱入してきたケイさんの声に、反射的に体を離す。うちの両親の前では遠慮などしないけれど、やはりハルさんとケイさんの前では違う。

あははと誤魔化すように笑いながら、他に厄介な乱入者が居ないか素早く室内を確認した。

「けーちゃん、もう飲まないんですか?」
「一旦休憩やー。あいつら飲み過ぎやで。晴人、帰ったら絶対ちーちゃんに怒られるわ」
「止めてきましょうか?」
「無駄や思うでー。マリちゃんが飲ましよるからな」

見ている限り、あのメンバーで酒を飲まないのはちーちゃんだけだと思う。男三人は普段からよく酔い潰れてここで転がっているし、うちの母も何だかんだと言いながらもよく飲む。そして、人に飲ますのが上手い。

「仲良いんですね」
「付き合い長いからなー。俺と晴人なんか高校時代からずっと一緒やし」
「長いですね」
「まぁ、色々あったけどなー」

その色々とは、おそらくハルさんとうちの母のことだろう。直接訊いたわけではないけれど、下手に察しが良い分そのあたりのことに気付いてしまった。

本人達が語ろうとしないから、問い詰めたりはしていない。それがせめてもの優しさだ。

「龍ちゃんとレイちゃんの姿が見えませんが…」
「二階上がってったで。莉良が暑いってゴネとった。こっち来んかった?」
「来てないですよ」

我が家は、あちらこちらが変わった造りをしていて。
二階へと上がる階段は、玄関からとリビングからの二つがあるけれど、三つ並んだ部屋の廊下は繋がっている。

要は、間仕切りはあれど大きな一つの空間で、とにかく幅の広い家なのだ。
だから庭が無駄に広い。

よくこんな斬新なデザインを思い付くものだ。と、少し尊敬する。


ついでに言えば、二階にある三つの部屋のバルコニーは全て繋がっている。部屋自体が繋がっているのは俺と妹の部屋だけだけれど、バルコニーへ出れば両親の部屋との行き来も可能だ。

まぁ、俺がそんなことをすることはまず無いけれど、妹と母はよくそうやって行き来をしているらしい。


リビングを通らなかったということは、玄関から入って反対側の階段から上へ行ったのだろう。

リビングからの階段を上がれば妹の部屋はすぐなのにわざわざコソコソと上がって行ったところを見ると、俺には見つかりたくなかったのだろう。自分達だけ逃げるとは何事だ!と、引き戻される可能性を考えて。

さすがによくわかっているではないか。