妹が潜り込んで来るのは、いつでも右側だった。なので、右腕を枕にされることは慣れている。けれど、今日は左腕だ。

しまった…と後悔したけれど、今更移動させるのも面倒くさい。

俺は右利きで、そんな利き腕が今自由になっているのだ。余程の忍耐力が無い限り、触れようとしてしまうのが男という生き物だろう。

「ねー、ちょっとだけ触っていい?」

スヤスヤと寝息を立てる無防備な女からは、返答があるはずもない。わかっていて問い掛けてしまうのは、うしろめたいからだ。

自らの意思で触れてしまえば、歯止めが利かなくなる可能性は大きい。そこまで自制が利くとも到底思えない。けれども、そのリスクを冒してまで触れたい。それくらいの「好き」はある。

それを単なる欲望だと言われれば、強く否定は出来ないけれど。


「俺ねー、お前のこと好きだよ。でも、その何十倍もお前に俺のこと好きでいてほしい。ワガママなんだよねー、誰かさんに似て」


俺からの「好き」よりも、セナからの「好き」の方が上回っていてほしい。愛されていると実感したい。俺だけが愛されている。と、そう溺れそうになるくらいに、もっと好きだと言ってほしい。

愛し合い過ぎる両親を持った結果、こんなにも欲深い思いを抱く残念な息子に成長してしまった。こんなことは、起きているセナには言えないけれど。


「独り占めしたいんだよね、お前のこと。俺だけ好きでいてほしい。俺だけのセナでいてほしい」


きっとハルさんも、こんな風に思ったことだろう。

二人の馴れ初めを詳しく聞いたわけではないけれど、ちーちゃんはハルさんしか男を知らないと聞いた。そして、出来た子供がセナ。古い考えを持つ大人の、理想の男女関係だろう。今時の若者でその関係を理想とする奴は少ない。俺もそうだ。

「いつになったら抱かせてくれんのかねー。早く欲しいんだけど」

ゆっくりと頬を撫ぜ、そのまま下へ下へと手を下降させて行く。首筋に鎖骨に肩、そして脇腹をゆっくりとなぞる。

強請られて触れるのは、頭と背中と、時々太もも。その程度だ。やはりそれが見えるとどうにも恥ずかしいらしく、唇を重ねながらギュッと目を閉じてその気持ち良さとやらを享受する姿が何とも可愛らしい。

「そろそろ起きた方がいいよ?じゃなきゃ、気付いた時には何も着てないかも」

幾ら言っても、パジャマを着ようとはしない。本人曰く、これが楽なのだそうだ。妹もそう言っていたけれど、如何せん妹とセナでは胸のサイズが違う。窮屈だろうに…と、幾つかボタンを外して解放してやる。

そして後悔する。外すんじゃなかった…と。