「はるの一番は、いつだってちーちゃんです」

扉越しに流れる景色を見つめたまま、悲しげな声が押し出される。

「ちーちゃんの一番も、いつだってはるです。けーちゃんの一番は、奥さんとたっちゃんです。セナは誰の一番でもないです」

あんな両親に育てられなのだから、さぞや幸せに暮らしてきたのだろうと思っていた。十分に愛情を注がれ、寂しい思いなどせずに暮らしてきたのだろう、と。

腕の中の少女は、ギュッと唇を噛み締めて震えていた。


「だったら、俺の一番になればいい。誰かの一番になりてーんだったら、俺の一番にしてやる」


何を言っているのだろうか、この男は。朝っぱらから電車の中…しかも、通学途中に。いくら海外育ちと言え、自分でも呆れてしまう。

「マナの一番になれるんですか?」
「してやるよ、一番に。だからそんな顔すんな」
「どうしてですか?」
「どっちにどうして?だよ」
「どうして一番になれるんですか?」
「また難しいこと訊くね、お前は」

コイツには赤が似合う。咄嗟にそう思った。朱より深い…そう、紅だ。きっとそれがよく似合う。

「俺の目を好きだって言ってくれた。だから俺の一番になれる。それで理由になるか?寂しいなら、我慢しなくても俺に甘えればいい」

上手く伝わっただろうか。自慢じゃないけれど、俺は体でわかり合う主義なのだ。そんなところばかり母に似た、残念な息子だ。

「聞いてんのか?コラ」

擦り寄ると、ビクッと肩が揺れる。何だかよくわからない女だけれど、ウブなのは間違い無いらしい。あと、素直なのも。

「寂しいです。マナがいてくれて良かったです」

ペたりと頬が寄せられる。面白いほど正直な女だ。こんな女も悪くない。