そして、夜も更けた頃。

精も根も尽き果てた表情をしてよろよろと廊下を歩いてた父を、多少申し訳なく思いながらも呼び止めた。

「メーシー、ちょっと」
「マナ…パパだよ、パパ」

そのまま部屋へ引っ張り込むと、彼はどさりとソファへ倒れ込んだ。その下には、すやすやと寝息を立てて眠る妹がいる。

「潰れるよ、レイが」
「うう…レイちゃん…パパの天使」

うぅんと嫌がる妹相手にすりすりと頬擦りをするその姿が、どうにもこうにも哀れで仕方がない。やれやれ…と両手を広げると、そんな俺の姿を見た彼からため息が洩れる。

「どうしても日本へ戻りたいんだって」
「ふぅん」
「ああなられると弱いんだよね、俺」
「知ってる。いつ?友達に挨拶しとかなきゃ」

理由も聞かずに承諾すると、項垂れたままのその頭にポンポンと手を置いて心配するなと伝えてやる。

「悪いね、マナ」
「別に。俺よりレイ」
「そうなんだよ。レイはママそっくりだから…泣かれちゃったらどうしよう」
「まっ、その時は俺が上手く言ってやるよ」
「助かるよ。ごめんね?」

いいって。と軽く返事をして、眠りこける妹に擦り寄る父を見下ろす。

「メーシーさ、何でマリーと結婚したの?メーシーだったらいくらだってイイ女捕まえられただろ?」

息子の贔屓目を抜いたとしても、うちの父親はイイ男だと思う。

日本人にしては珍しい褐色の双眸に、カラーリングなどしなくとも綺麗な茶色い髪。そんな容姿に加えて、彼は極度のフェミニストだ。どんなに有名なショーにでも必ず声がかかるほど仕事も出来る。

そんな彼だから、わざわざあんな…と言えば叱られるけれど、ワガママ極めたるような女と結婚しなくとも良かったのではないかと思ってしまう。