両手で紙コップを持ちながらゆらゆらと左右に体を揺らしているレベッカは、どうやら噂話に耳を傾けているようで。時折クスッと笑い声を洩らしながら、楽しげにオレンジジュースを飲んでいた。

「steady、なんて?」
「え?あぁ、学校終わったから駅前のカフェに来て待ってるって」
「危ないデスヨ?あの制服可愛いから、誘拐されるかも!?」
「お前…家どこ?」

レベッカの言葉に、愛斗はとある疑問を抱いた。

今朝、学校から少し過ぎ離れたところからレベッカに付けられていることに気付いた。

「んー、藤沢」
「嘘つけ」
「Yes.裏のAmerican schoolに通ってマシタ」

おどけて肩を竦めるレベッカに、愛斗は瞠目した。

「お前…」
「マナのこと、前から知ってマシタ」
「何で黙ってた」
「さぁ」

グッと顔を近付けるレベッカに、愛斗は咄嗟に身を引く。
読めない思考を紐解こうと頑張る愛斗に、レベッカはクスクスと笑いながら言った。


「don't worry.ワタシはマナのその目が好きなだけデース」


伸ばされた手を払うことも出来ず、愛斗は固まったまま右目をなぞる指先の感覚にただただ静かに息を呑んだ。

「ベッキー…俺にはsteadyがいるからな」
「I see.kittyも知ってマース」
「聖奈に…手出しするなよ」
「Oh!そんなことしない」

読めない。
目の前で瞬かれるレベッカの瞳の奥には、何の色も見えない。

何を考えているのか全くわからないという初めての事態に、愛斗は酷く困惑していた。

「俺、やっぱお前のこと苦手」
「ワタシは好きデース」
「だから…」
「loveじゃない。like」

抱いていた好意はいったいどこへやら。わけのわからない女だ。と、愛斗は大きなため息をついた。