「花街がどういうところかも知らねぇで、わかったような口利くんじゃねぇ。初めは売られてきたんだろうがな、そこにゃれっきとした取引が成されてるんだよ。置屋だって、買った女子をそれなりにするための投資は、並大抵じゃねぇんだ。行儀見習いだって、ただじゃねぇ。着物だってそれなりのモン着せねぇと、様にならねぇ。そいつは全て、見世に出るようになってから、てめぇの身体で返すんだ。それが花街ってとこなんだよ」

「・・・・・・っ」

 小太が、唇を噛みしめて俯く。

「・・・・・・あんただって、そんぐらい、わかってんだろ。昨日今日花街に来たわけじゃあるめぇ」

 長火鉢にもたれかかって紫煙を吐く男に、少女は少し躊躇った後、小さく頷いた。
 そして、つ、と小太の後ろから身体をずらすと、男の前に手を突く。

「あなた様の仰る通り、あたしは花街に売られてきた娘です。花街のしきたりも、それなりにわかっているつもりです。ただ・・・・・・あ、あたしに関しては、いかに廓といえども耐えられない仕打ちを受けてきたので・・・・・・」

 ぶるぶると震えながら言う。
 かつて花街にいた狐姫でさえも、不審に思うほどの怯えようだ。

 その姿に、男が少し興味を示す。
 少女は、ちら、と男と小太を見、意を決したように立ち上がった。

「あ、あの・・・・・・」

 思い詰めたように言う少女に、男は何か察したのか、つい、と二階に上がる階段を見た。
 その視線に促され、少女は部屋を出て階段を上がって行った。
 つられて腰を浮かす小太を、狐姫がぐいっと引っ張る。

「もう、野暮だねぇ。あんたは大人しく、ここで待ってな」

 え? という小太の横をすり抜け、男はさっさと階段を上がっていった。