おたおたと、小菊は牙呪丸と狐姫を交互に見る。
 牙呪丸の言葉の前半は、普通なら驚くべきことだが、それにしては後半部分の訳がわからない。

 どうやら牙呪丸にとって大事な女子が廓に売られたらしいが、それに対する怒りが着物の洗濯だけで済むというのは、全く割に合っていない。
 聞いたままの意味ではないのかもしれないとも思い、小菊はますます混乱する。

 そんな小菊に、牙呪丸は僅かに眉を顰めた。

「・・・・・・遊女のわりに、頭の鈍い女子だの。何をぼんやりしておるのじゃ。ほれ、とっとと我の袖を洗わぬか。でないと我が、呶々女に叱られるではないか」

 ほれほれ、と牙呪丸は、袖を押しつけるように、小菊の鼻先に腕を突き出す。
 やっと小菊は、水を汲みに腰を上げた。

「そいで? 何かわかったのかい? まさか、着物が汚れただけってことはないだろうね?」

 冷ややかに、狐姫が牙呪丸を見る。
 この男に限っては、あり得ないことでもないのだ。
 何せ、呶々女一番なのだから。

 『仕事より呶々女』であることは明白だ。
 『着物が汚れる』→『呶々女に怒られる』ということは、牙呪丸にとっては仕事よりも重大事件である。
 着物が汚れた時点で、仕事を放っぽり出しても不思議でない。