「いや。もう少し絞めれば死んでいたであろうがな。何か、止められた」

 そして、ついと奥の小菊を見る。

「あれが例の遊女かえ」

 まるで錦絵から抜け出たような美貌の青年に目を向けられ、小菊は心臓が跳ね上がった。

「ああ。小菊ってんだよ。こっちは牙呪丸。旦さんのお仲間だよ」

 狐姫が、小菊のほうを向いて青年を紹介した。
 小菊は牙呪丸に頭を下げたが、牙呪丸は忌々しそうに息をつく。

「おのれのせいで、呶々女がいらぬ働きをせねばならなくなった。全く、どういうつもりなのか」

 もっともといえばもっともなことを言われ、小菊は小さくなって固まる。
 狐姫はそんな牙呪丸に、呆れたように言った。

「あんたはもぅ、親離れできない雛でもあるまいに。寝ても覚めても呶々女呶々女って、鬱陶しいねぇ」

「呶々女と我は一体故、おかしいことでもあるまい」

 狐姫の苦言にも、牙呪丸は顔色一つ変えずに、しれっと答える。
 状況がよくわからないまま固まる小菊に、牙呪丸は再び顔を向け、初めのように、ずいっと腕を突き出した。

「娘、おのれのために、呶々女が廓に売られたのだ。我の着物の汚れを取るぐらいは、しても罰は当たらぬぞ」

「え、え?」