「呶々女が絡むと早いねぇ。いつもそれぐらいのやる気を出してくれないものか」

「それどころではない」

 おかしそうに笑う狐姫の前に座るなり、青年はずいっと腕を突き出した。

「着物が汚れてしまった。このままでおれば、呶々女に叱られるではないか。どうすればいいのだ」

 狐姫の後ろのほうで、小菊はぽかんとしたまま、固まっていた。
 ・・・・・・この見目麗しい青年は、一体何を言っているのだろう。

「汚れ? ・・・・・・ああ、ほんとだ。何だ、また何ぞ甘味を食おうとして、こぼしたのかい?」

「違う。売り物の菓子は、あまり食うたら呶々女が怒る。だから聞き込みがてら、珍しい瓜を買うたのだ。が、亡八とやり合ったときに、潰してしまったようだ。多分、締め上げたときだな。くっ・・・・・・我としたことが、抜かったわ」

 心底口惜しそうに、青年は舌打ちする。
 小菊は相変わらず、ぽかんと青年を見つめた。

 話の流れから、何となくこの青年も、千之助のお仲間なのだと知れる。
 自分に関することで、何か千之助に頼まれたのだろう。

 だが、それにしては、菓子だの瓜だの、話の内容が今ひとつ理解できない。

「おやおや、牙呪丸ともあろうものが、好物の甘味をおじゃんにしちまうとはね・・・・・・て、ちょいと! そういやあんた、締め上げたときって、殺っちまったのかい?」

 呑気に笑っていた狐姫が、はたと気づいたように、身を乗り出した。