がたんという物音に、小菊はびくっと顔を上げた。
 弾みで持っていた芋が転がる。

「・・・・・・ん~?」

 部屋で脇息にもたれかかっていた狐姫が、物憂げに視線を上にやる。

 音は二階から聞こえた。
 今、小菊は夕餉の支度を、杉成は店で接客をしている。
 狐姫は目の前にいるし、とらは再び出て行って、まだ帰ってきていない。
 二階には誰もいないはずである。

「な、何でしょう」

 怯えた表情で包丁を握る小菊だったが、狐姫は少し首を傾げただけだった。

 やがて何かが滑るような音がし、階段の途中でぴたりと止まる。
 階段は店に入った正面だ。
 奥にいる小菊からは、まだ階段を下りてくるモノの姿は見えない。

 店にいた杉成が、ひょいと顔を上げ、次いで、ざっと周りを見渡した。
 そしてもう一度階段に向き直り、一つこくんと頷く。

 すると、階段途中にいたモノは、再び動き出したようだ。
 階段を下りるにしては不自然な、やはり滑るような音が続く。

「おや。えらく早いねぇ。よっぽど呶々女が恋しいと見える」

 階段下に姿を現した青年に、狐姫がからかうように言った。
 その後ろで、小菊は息を呑んだ。
 下りてきたのは、見たこともないような美男子だったのだ。