冷ややかな牙呪丸の言葉に、破落戸らの顔がぴき、と引き攣る。
 そんな空気を感じることもなく、牙呪丸はそろそろぐったりしてきた男を解放した。
 解放されても、男はどさりとその場に倒れ込み、ぴくりとも動かない。

「では今、小太はどこにおるのだ。伯狸楼か?」

 終始無表情に、牙呪丸は質問を続ける。
 思えば牙呪丸の表情が動いたのは、男を締め上げていたときだけだ。

「な、何も危害を加えるつもりはねぇんだぜ? ただ、小菊が戻るまでの人質ってか・・・・・・」

「なぁ兄ちゃん。お前さん、小菊がどこにいるのか知ってるんじゃねぇのか? 何で小僧を追ってるんだよ?」

 口々に問われ、牙呪丸はいい加減うんざりしたように、視線を落とした。

 そこでふと、思い出したように袂を探る。
 その手が、ぴたりと止まった。

「・・・・・・っ! 何ということだ」

 今まで一切の表情を浮かべなかった牙呪丸の目が、僅かだが見開かれる。
 何事かと見る破落戸の前で、牙呪丸は袂に入れた手を引き抜いた。
 その手には、潰れた瓜。

「折角の我の菓子がっ・・・・・・。着物も汚れてしまったし、このままでは呶々女に怒られるではないかっ」

 潰れた瓜を放り出し、牙呪丸はしきりに袂の汚れを確かめる。
 そして、呆気に取られている破落戸どもをそのままに、身を翻すと、あっという間に掻き消えた。