始末屋 妖幻堂

 得意の荒事に事が進んで、亡八はやっといつもの調子を取り戻した。
 にやりと笑い、牙呪丸に匕首を突きつける。

 それを合図に、そこここの物陰から、仲間と思われる者が走り出てきた。
 合わせて五人ほどの破落戸(ごろつき)が、ぐるりと牙呪丸を取り囲む。

「格好付けて俺をおびき出したようだがな! 甘かったな。そんな瓜一つで、攻撃できると思うなよ」

「・・・・・・? 何故折角手に入れた我の菓子を、お主のような輩に使わねばならんのだ」

 先程上の道で瓜を眺めていたのは、別に武器に出来るか考えていたわけではない。
 単に、今すぐ食べたいが、あの娘がまだ熟れてないとか、冷やした方が美味いとか言っていたのを思いだしていただけだ。

「訳のわからぬことを言うておらんで、さっさと答えぬか。小太を、どこにやったのだ」

「訳がわからんのは、てめぇのほうだぁっ!!」

 あまりの話の通じなさに業を煮やした亡八が、匕首を振りかざして突進してきた。

 ぎりぎりまで引き付け、牙呪丸は身体を反転させると同時に、素早く何かを動かした。
 亡八が倒れる。
 見ていた者も、倒れた本人も、何が起こったのかわからず、目を見開いて動きを無くした。

 牙呪丸を取り囲んでいた者らには、彼が匕首を避けただけにしか見えなかった。
 なのに、突っ込んでいった亡八は、まるで何かに足を払われたように、勢い良く両足を跳ね上げて、その場に転がったのだ。