始末屋 妖幻堂

 判断の付きかねる表情の娘をじっと見ていた牙呪丸は、不意にぽんと肩を叩かれ、振り向いた。

「兄ちゃん。ちょいといいか?」

 牙呪丸の肩を掴んでいるのは、見るからに荒くれ者の、大柄な男だった。
 普通の者なら振り返った途端、震え上がるだろうに、牙呪丸は相変わらずの無表情で男を見上げた。
 そして、面白くもなさそうに口を開く。

「・・・・・・伯狸楼の亡八か」

 顔色一つ変えず、また直球で核心を突く。
 あまり頭の良い方法ではない。
 案の定、男のほうが、さっと顔色を変えた。

 男は素早く辺りを見回し、人の目(主に女子)があると知ると、無理矢理笑みを浮かべ、愛想良く手を振った。

「伯狸楼はよ、よくこの店に買い出しに来てるんだ。だから俺も、店の者は良く知ってる。力になれればと思ってよ」

「あら伯狸楼さん。いつもお世話になってます」

 娘が亡八に挨拶する。
 一応愛想良くはしているが、娘に非道な行為を強いる伯狸楼の亡八など、親しく付き合いたい人間ではない。
 作り笑顔で対応していた娘は、ふと辺りを見回した。

「・・・・・・あら? いつもの女の子は・・・・・・」

「あー、あいつはちょいと寝込んでるんだよ。それよりもこの青菜、これをいつもの量、用意できるか?」

 娘の言葉を遮り、早々に男は話題を変えた。
 牙呪丸はその間じっと男を見、やがて娘に瓜の代価を渡すと、踵を返した。