「これは、大変な目に遭いましたな。湯を使われたほうがよろしかろう」
男が、千之助に湯を勧めた。
一切の警戒をもしないのは、ずぶ濡れな千之助の見てくれにもよるが、相手に警戒心を抱かせない、千之助の術中に嵌っているせいもある。
「お清、お客人を岩の温泉に・・・・・・」
男が屋敷の奥に向かって声をかけるのを、娘が遮った。
「お父。お清はいないよ」
「あ? ああ、そうだったな・・・・・・」
うん、そうだった、と一つ頷く男に、娘が山菜の籠を押しつける。
「しっかりしなっせ。お客人は、あたしが温泉に連れて行ってあげる」
ぼんやりと佇む男をそのままに、娘は、ちょっと待ってて、と千之助に言うと、再び屋敷に駆け上がり、風呂敷を抱えて戻ってきた。
「さ、じゃあ行こう。向こうの岩山に、良い温泉があるんだ」
娘に連れられ、千之助は温泉に向かった。
道中、辺りを窺ってみたが、村を見る限り、どこにもおかしいところはない。
怪しげな者もいない感じだ。
---まぁ・・・・・・二年前のことだしなぁ---
ちらっと見ただけでは、わからない。
幸い村の有力者の助力を得られそうだ。
それに、小さな村だ。
その長ともなれば、村の者ぐらい見知っていよう。
二年前にいなくなった娘のことだって、覚えているに違いない。
男が、千之助に湯を勧めた。
一切の警戒をもしないのは、ずぶ濡れな千之助の見てくれにもよるが、相手に警戒心を抱かせない、千之助の術中に嵌っているせいもある。
「お清、お客人を岩の温泉に・・・・・・」
男が屋敷の奥に向かって声をかけるのを、娘が遮った。
「お父。お清はいないよ」
「あ? ああ、そうだったな・・・・・・」
うん、そうだった、と一つ頷く男に、娘が山菜の籠を押しつける。
「しっかりしなっせ。お客人は、あたしが温泉に連れて行ってあげる」
ぼんやりと佇む男をそのままに、娘は、ちょっと待ってて、と千之助に言うと、再び屋敷に駆け上がり、風呂敷を抱えて戻ってきた。
「さ、じゃあ行こう。向こうの岩山に、良い温泉があるんだ」
娘に連れられ、千之助は温泉に向かった。
道中、辺りを窺ってみたが、村を見る限り、どこにもおかしいところはない。
怪しげな者もいない感じだ。
---まぁ・・・・・・二年前のことだしなぁ---
ちらっと見ただけでは、わからない。
幸い村の有力者の助力を得られそうだ。
それに、小さな村だ。
その長ともなれば、村の者ぐらい見知っていよう。
二年前にいなくなった娘のことだって、覚えているに違いない。


