始末屋 妖幻堂

「あっあのっ。旅の人か? 何ぞ、難儀なことになってるんじゃねぇか?」

 訛った口調で言う娘に、千之助は素直に頷いた。

「ああ。そこの水に落ちちまった。持ちモンも落としちまったし」

「み、都のお人か。あのっ、良ければ家で休まれたらどうだ? まだ日は高いが、山だから夜も早い。日が落ちたら冷えるし、そのままじゃ難儀だろ?」

 見れば娘は手に持った籠に、山菜を山と積んでいる。
 山菜採りに来たのだろう。

「・・・・・・すまねぇな。この辺の地理には疎いし。ご厄介になっても、構わねぇかい?」

「うん! 都のお人からしたら田舎だろうけど、ここは他の村と違って田も良いし、山の恵みもある。お客なんか滅多に来ないから、むしろ大歓迎だよ!」

 嬉しそうに言う娘に引っ張られ、千之助は村に入った。
 村は見たところ、普通の山村だ。
 娘はそのうちの、一際大きな屋敷に駆け込んだ。

「お父~。お客様だよぅ。旅のお人が、追いはぎに襲われて難儀してらしたから、お連れしたんだ」

 叫びながら、中に入っていく。
 いつの間にか、千之助は追いはぎに遭った旅人ということになっている。

 娘が奥に引っ込んでいる間に、千之助は土間から中を窺った。
 家の規模からして、彼女の父というのは、この村の長であろう。

 しばらくして、娘が初老の男を連れて戻ってきた。