始末屋 妖幻堂

 派手な水音を立てて湖に飛び込んだ千之助は、しばらくしてから水面に顔を覗かせた。

「・・・・・・ったく、初手からこれかい。ついてねぇ」

 ぶつぶつ言いながら、岸に泳ぐ。

 幸い雨は小降りになっている。
 元々千之助の乗ってきた龍が降らせた雨だ。
 龍が消えれば雨も上がる。

 岸に泳ぎ着き、着ていた蓑を脱ぎ捨てた千之助は、腰を探った。
 持ってきた小さな荷物は水中に没してしまったが、腰にある小刀と巾着さえあれば、別に困らない。

 もっとも千之助に関しては、例えその腰の二つもなくなっていたところで、大して困らないだろうが。

「さてと。どうしたもんかな」

 とりあえず、ずぶ濡れになった着物を絞っていると、先の水音を聞きつけてか、茂みの中から一人の娘が顔を覗かせた。

 怖々、といった風に辺りを窺っていた娘だが、やがて茂みから千之助のほうに駆け寄ってきた。
 千之助の風貌から、怪しげな者ではない、と判断したのだろう。

 確かに小柄で細身な千之助は、盗賊や追いはぎの類には見えない。
 むしろ、今ずぶ濡れでいる風を見れば、追いはぎに襲われた旅人といったほうが、よっぽどしっくりくる。