小菊を寝かしつけ、千之助は旅支度を調えた。

「狐姫は、牙呪丸に繋ぎをとってくれ。あいつには、登楼する前に、小太を捜してもらう」

「あの小僧も、何か巻き込まれたっていうのかい?」

 狐姫が甲斐甲斐しく千之助の支度を手伝いながら言う。
 花街の太夫そのままの格好の狐姫が、嫌な顔ひとつせず、こういうことをするので、小菊などはすっかり千之助と狐姫の仲を、そういう仲だと思っている。

 実際、狐姫は千之助を慕っているからこそ彼に仕えているのだが、それは何故なのか、ということは、誰にもわからない。
 千之助という人物が何なのか、ということ自体が謎なのだ。

「わからねぇ。だが、その可能性もある。初めは八百屋の女将らが何も気にしてねぇから、いつも通り使いっ走りにでも出てるんだろうと思ったが、小菊の様子を見てると、ちょっと嫌な予感がしてきた。八百屋の奴らが、小菊と同じような術で、小太のことだけ忘れてるのかもしれん」