始末屋 妖幻堂

「俺ぁそれが商売だ。女子相手でねぇと、物も売れねぇからな」

 しれっと言い、千之助は手を突き出すと、なおもぶつぶつ呟いている小菊の顔の前で、一度ぱちんと指を鳴らした。
 一瞬だけ、小菊が覚醒する。

「そんで、その最後の逢い引きのとき、結局佐吉は来たのか?」

 ずいっと香炉を小菊の前に突き出し、千之助は、ぎっと小菊を見た。
 千之助の視線に絡め取られ、軽い金縛りにあっている間に、再び小菊は催眠状態に陥る。

「えっと・・・・・・。ああ・・・・・・そういえば、何であのとき佐吉さんは来てくれなかったんだろう・・・・・・。何で佐吉さんしか知らないあの場所に、あんな奴らが・・・・・・。木の陰にいたのは、佐吉さんじゃないよね・・・・・・?」

 先と同じように、感情のまま心の中を吐露する小菊の目から、ぼろぼろと涙がこぼれる。
 千之助の片眉が上がった。

「ほぅ? ・・・・・・小菊、おめぇの生国(くに)はどこだい?」

 千之助は、最後の質問を優しく言った。
 俯いたまま、小菊はしばらく泣いていたが、やがてぽつりと呟いた。

「・・・・・・信州の・・・・・・尾鳴村・・・・・・」