始末屋 妖幻堂

「逢い引きの場所に、佐吉は来たのか?」

 質問しながら、千之助は片手で器用に香炉の蓋を開けた。
 そこに、反対の手に持っていた煙管の火を落とし込む。
 途端にふわっと、不思議な香りが広がった。

「・・・・・・伯狸楼に来たのは、何年前のこったぃ?」

 香の香りに、小菊の表情がぼぅっとなったのを見計らい、千之助は重ねて問うた。
 呆けたような表情のまま、小菊は口を開く。

「・・・・・・十三の歳だから・・・・・・二年前・・・・・・」

 狐姫が、眉を顰めた。
 ということは、小菊は十五。
 十三にもなっていたら、廓に売られた時点で、すぐにでも客を取らされそうだが。

「解せねぇな。いまだに見世にも出てねぇし。よっぽど物覚えが悪かったのか?」

 一応廓のしきたりや礼儀作法は叩き込まれる。
 そのための期間は必要だ。

 が、五歳や六歳じゃないのだ。
 二年も必要ないだろう。
 遊女は若さが命だ。
 行儀見習いに、そうそう時間はかけられない。

「そうは思えないよ。手際も良いし、頭も悪くない。店のことだって、結構すぐに覚えるし」

「おんや珍しい。狐姫が人を褒めるなんざ」

 千之助の軽口に、狐姫はまた、ばしんと彼の肩を叩いた。