始末屋 妖幻堂

「よくもまぁ、そんな厄介な奴を廓に入れたもんだなぁ」

 腕組みをして言う千之助は、それでも納得したように、しきりに頷く。

「見目良い女子を痛めつけることができるなんざ、おさんにとっちゃ伯狸楼は楽しくてしょうがないところだろうな」

「何感心してんだい。呶々女が苛められるかもしれないじゃないか。あいつに変な傷つけられたりしちゃ、それこそ牙呪丸が恐ろしいよ」

 狐姫が千之助の肩を、ばしんと叩く。
 ううむ、と唸った後、千之助は息をついて顔を上げた。

「こうなりゃとっとと方ぁ付けるためにも、ちょいと手荒く動くか。といっても、俺っちが出張るのはまだ早ぇな。伯狸楼には、牙呪丸を送り込む。俺っちは、小菊の里に行こうかえ」

 そう言って千之助は、小菊に真っ直ぐ目を向けた。

「お前さん、里のことは覚えているかい?」

「・・・・・・えっと。長閑で普通な・・・・・・山間の小さな村で」

「伯狸楼までの道のりのことは?」

「・・・・・・」

 小さく口を開いたまま、小菊は視線を彷徨わす。

「どれぐらいかかった?」

「あ、あの・・・・・・。ええっと・・・・・・」

 懸命に思い出そうとする小菊が、苦しそうに頭を抱える。
 いつの間にか、千之助の手には、小さな香炉が握られていた。