始末屋 妖幻堂

「おさん狐が遣り手じゃあ、見目良い娘を目の敵にするのも頷ける。伯狸楼も、えらい遣り手を使ってるもんだな」

「女子の坩堝におさん狐たぁ、事を荒立てるようなもんじゃないか」

 狐姫も呆れたように言う。
 小菊は目を丸くして、二人を見た。

「あの。おさん婆を、知ってるんですか?」

 二人とも、花街には馴染み深そうだから、遣り手を知っていてもおかしいことはないのだが。
 そんな軽い知り合いというわけでもないようだ。
 随分よく知っているような。

「・・・・・・ま、妖(あやかし)に詳しい奴ぁ知ってるさ。うちにゃ狐姫もいるし」

「あんな女狐と一緒にしないどくれ」

 軽く言う千之助とは違い、狐姫は心底嫌そうに口を尖らす。
 そういえば、おさん『狐』と言っていた。
 ということは、あの遣り手も狐だったということだろうか。

「おさん狐ってのぁ、ま、妖狐の類だが。男女の仲を裂くのが好きというか、男を誑かすのが好きというか。色恋をかき乱すのが好きなのさ。恋人や夫婦仲を裂いたりな」

 言われてみれば、確かにおさん婆絡みの嫌がらせは多々あった。
 小菊だけに留まらず、伯狸楼の遊女全てが被害に遭っているといっても過言でない。

 姐遊女が贔屓客にもらった贈り物を壊されたり、付け文を違う遊女に届けたり。
 架空であっても男女の色恋が渦巻く花街では、そういう楽しみは絶えないだろう。