始末屋 妖幻堂

 今回は、やたらと人員を動員してしまった。
 だが現金が必要なのは、呶々女ぐらいなものである。

 牙呪丸は甘味のほうが良いし、九郎助だって現金は必要ない。
 狐姫と同様、しばらく極上の油揚げを買いに、清水に通うことになるだろうが。

「さて。つーことで、とりあえずは一件落着だ。今回は世話んなったなぁ。また妖幻堂に来てくれよ。狐姫が稲荷を作れる奴がいなくなって、困ってるんだ」

 行李を抱え、千之助は立ち上がる。
 呶々女が蒸籠を開け、出来たての蒸し羊羹を一本、千之助に差し出した。

「そだね。やっといつもの暮らしに戻って、太夫も嬉しかろうね」

 羊羹を受け取り、千之助が店から出ようと暖簾に手を伸ばしたとき、その暖簾が外から跳ね上げられた。
 買い物帰りか、小太が大きな風呂敷包みを抱えて入ってくる。

「あ。旦那」

「おぅ。きちんと働いてるかい?」

 小太は相変わらず、仕事の途中に、この菓子処に寄り道しているようだ。
 が、以前と違って、店の仕事もきちんと手伝っている。

「小僧。新作の羊羹だよ。ほら、お茶淹れてやるから、食っていきな」

 呶々女が再び蒸籠を開け、羊羹を取り出しながら言う。
 ぱ、と笑顔になって、小太は店の上がり框に腰掛けた。