始末屋 妖幻堂

「そいつ、そんな金持ちだったんかい?」

 呶々女が疑わしそうに言う。
 呶々女の中では佐吉は、妖幻堂にいる間に遊女らから聞いた印象しかない。
 曰く、女たらしの遊び人。
 そのような者が、始末料を払えるほどの金を持っているものだろうか。

 千之助は、ふ、と紫煙を吐き出すと、少し温くなった茶を飲んだ。

「俺っちも、大して期待はしてなかったんだがな。仲介料っつっても、奴らのことだ。売り飛ばすまでの生活費、阿片代まで考えて、さらに己の懐に入る分を吊り上げようとするから、かなり値切ってくるはずだ。相手が手慣れた女衒じゃねぇ分、あくどく値切ってきただろう。人数だって、そう多く出したわけじゃねぇ。そこから当座のあいつらの生活費を考えると、ほとんど残らねぇぐらいしかねぇと思ってた」

「千さんは、それでも良かったんかい? あんな目に遭って、ただ働きなんて、割に合わないじゃないか」

 やっぱりとんでもない野郎だ、と、呶々女は憤慨する。

「牙呪丸だって怪我したんだよっ。可哀相だったんだから」

 撫で撫でと、傍らで団子を貪る牙呪丸の頭を撫でる呶々女は、いつもの十七ぐらいの姿とはいえ、やはり牙呪丸の見た目よりは幼い。
 だがまるっきり牙呪丸を子供のように扱う姿は、いつものことながら奇妙な光景だ。

「我のことなどどうでも良いが、呶々女の労は労ってもらわねば」

 牙呪丸は牙呪丸で、そのような扱いにも大人しくされるがままだ。
 むしろ嬉しそうである。
 この二人は本当に、非常にお互い相手を想い合っている。

 やれやれ、と千之助は、苦笑いをして頭を掻いた。