始末屋 妖幻堂

「ああ。見世はもう、影も形もない。ヤクザ者も牙呪丸と一緒に始末したし、もうお前さんらを追う奴もいねぇよ」

「牙呪丸さん・・・・・・」

 千之助が故意に牙呪丸の名を出したのは、以前妖幻堂でやり合ったとき、小菊は牙呪丸の正体を見たからだ。
 そのとき千之助はその場にいなかったが、狐姫から聞いた。

 牙呪丸の正体を知っているのなら、伯狸楼のヤクザ者を始末したということも、納得できよう。
 ヒトではないのだから、千之助と二人であっても、おかしくない。

「それなら安心です。本当に、ありがとうございました。牙呪丸さんにも、お礼を言わなければ・・・・・・」

 手を付いて頭を下げる小菊に、千之助は、はは、と笑った。

「気にすんな。あいつには、俺っちから礼をしておくさ。普通の礼なんざ、あんまり意味ねぇしな」

「そうだよ。あいつはいっつも呶々女にくっついて甘味を貪ってるだけなんだから、たまには働くべきなのさ。こんなことでもないと、動かない奴なんだから、いいんだよ」

 今まで黙っていた狐姫が、牙呪丸のことになった途端、憎まれ口を叩く。
 佐吉は狐姫をちらりと見、落ち着きなさそうに視線を彷徨わせる。

 どう考えても、この場に太夫がいるのは不自然なのだ。
 この状況に、いつまでたっても慣れない。

「・・・・・・で、か、金だが。えっと、清を見つけてから、そのきっかけをくれた祠に預かってもらってるんだ」

 狐姫を意識しないよう注意しながら、佐吉が話を戻した。
 さすがに妖の太夫だけあり、ただの鄙男など、一目で籠絡できる狐姫だ。
 佐吉も、しどろもどろになる。